2012年12月25日火曜日

一九世紀西欧の女性観

それは生命というものが、人々の心身の内側から、陰陽のバランスが良好な状態の時に、あふれ出てくるものであるという東洋医学的宇宙観に基づいている。したがって、「さわり」があればバランスはくずれ、身体のどこかに異変を生じ、生命が日々こんこんとあふれて来る状態を維持することはできないとみなした。そこで、自分自身の内に日々あふれる生命を大切に養うような生活を送ること、つまり「養生」こそが人々の健康作りの基本思想とされてきたのであった。

このように近代西洋医学が導入される以前の人々は、病気になるとくるったバランスを回復させ、健康な身体にもどすためにおはらいをし、鍼灸や薬草の力を借りて健康維持を図っていた。ところが科学的実証をもととした近代西洋医学では、悪いのは病気を起こす病原性細菌であり、そのため人体に外から細菌が侵入するのを防ぎ(予防)、細菌を薬によって殺し(殺菌)、細菌が出した毒を消し(消毒)、毒におかされた部分を切除(手術)すれば生命を衛(守)る(「衛生」)ことができると考えた。つまり、心も身体も真の対象ではなくなり、細菌におかされた身体の患部だけが治療上、大切な対象物となったのである。こうしてこれ以後、病気治療において「心」の存在の重さは無視されるようになり、現代に至っている。

また「養生」思想では、各自が身体の持ち主で、その癒しの主体者であったが、「衛生」観念においては、そのための正統な技術や知識を持った専門家(例えば医者など)に自分の身体を衛ってもらわねば、素人(病人)にはわからないものとなり、病人は自分の身体でありながら、病気の間は専門家(医者)に身体(の患部)を任せて、口出しせず治してもらうべき存在になったのである。つまり、病気やお産など身体に起きる現象においては、ここから個人の受身の時代が始まったのである。

細菌学の目をみはるような発見と、それに対する治療上の進歩は、近代医学的治療の必要な病気に大きな恩恵を与え、それらの病気の克服に目ざましい成果を残した。しかし、それ以外の、近代西洋医学的方法では治らない病気や、身体に関する生理的変化(例えば、心の病いとか体質の問題、慢性病、また、出産や加齢など)になやむ人々にとって、成果は期待できなかつた。

ストレスの問題は、一九六〇年代に入るまで無視された。さらにアトピー性皮膚炎などアレルギー性疾患の究明も、まだスタート台についたばかりの状態で、本来の意味の「治療」などという段階には至っていない。さらに終末期ヶア、高齢者の健康のあり方など、どれをとってもほとんどが無策、という現状を作り出した。

さて、明治の日本があこがれだのはヨーロッパの医療事情だけではない。当時の西欧のすべてがキラキラと感じられたのである。それらのうち、私たちの暮らしに大きな影響力を残したものに、男女の身の処し方(「男らしさ、女らしさしがあった。明治初期、留学や視察によって、西欧に渡った為政者たちが目にしたのは、それまでの武士の中心思想であった儒教思想の中で、とかく「能なし」とみなしていた女性たちが、良妻賢母として家の中だけではあったが、しっかりと子どもを教育し、一家をきりもりしている姿であった。


2012年9月3日月曜日

本質上観照的な美的感情

ところでバラの花が「愛らしく」、冬の景色か「さびしげ」で、あれた海が「怒っている」のも、もとをただせば私どもか先方にさずけた私の感情なのだから、自分の気持がゆたかかまずしいか、よろこびで一杯かかなしみでとじこめられているかによって、ものの見え方もさまざまにちかうと予想しなければならない。たとえば梢に風がわたる風景についてみれば、よろこびにみちた人は「木だちが朝のあいさつをしている」とすがすがしく感人するだろうし、悲哀の人は「たんとうちしおれているのだろう」と感人するであろう。

また楽天的な人はかごのなかでないている小鳥をみて、「おまえも愉快にやってるな」と思うか、かなしみと苦しみに感じやすい人は「泣いてるね、かわいそうに」と思いやるにちがいない。(「泣いてるね、かわいそうに」はほんとうは一つの気持ではない。これをほごせば、「泣いてるね」の方は人が鳥になげいれた感情移入であるか、「かわいそうに」はこれとは別の「同悲」の感情である。感情移入そのものは、本質上観照的な美的感情であるけれども、同悲の方は相手の苦しみとおなじ苦しみを自分のなかで感じかなしむ心で、美的ではない)。

感情といえばだれでもそれは人間の心のなかに感じられるものと考えがちであるか、このように「感じられ方」の上からみれば、それは喜怒哀楽のような私どもの心のなかの起伏の感じだけとはかぎらず、文字どおりに「感情は物にもある」のである。そして物にそなわる感情はもともと私たちの心が先方へ移しうえられたものであるから、こちらの心のおりようによって、そめだされ方はさまざまである。そこでこれから、私どもの心によってそめだされた外界のいろいろなありさまをみていこう。

2012年8月2日木曜日

地位の高い者は共和党支持

ミシガン大学世論調査研究所がまとめたところによれば、教育程度の差や職業による支ここから浮かびあがってくる姿というのは、いわゆる少数民族と称せられる人々が民主党を支持することが多く、社会の中枢部を占めるアングロサクソン系の白人に共和党支持者が多いということである。

政党は文化である それにしても、アメリカ社会は身分の移動が比較的簡単な国のはずであった。昨日までは非熟練工でも、明日からは管理職ということもあり得る。そのような場合には、自分の支持政党を変えるのだろうかという疑問がわいてくる。

また最近になって、南部の民主党支持者が離反し始め、共和党に回っているということもよくいわれている。つまり、誰にも強制されることのない社仝のなかでは、個人が独自の判断にもとづいて支持政党を決めるように思われている。

そしてその流動的なところに、自由社会の政治のドラマのおもしろさがあるなどと考えてしまいがちである。しかし本当にそうだろうか。くわしく調べてみると、こちらで想像するようには人々が自由に支持政党を変えたりしているのではないらしい、ということがわかってきた。

むしろそれぞれの家庭にはその家の伝統のようなものがあり、アメリカ人ぱその伝統にのっとって支持政党に資金を出したり。あるいは投票行動をとっているらしいのである。一九七〇年代の半ばまでハーバード大学で政治学を教えていたV・O・ケイによれば、両親と同じ政党に投票する者は、全投票者の七五パーセント以上に達するという。

すなわち、自分たちが支持する政党の種類は、その家庭の文化として親から子供へと受けつがれているのである。西欧の家庭には、たしかに家庭に伝わる文化がある。たとえば、父親がよくビールを夕食時に飲む家庭で育った子供は、成人して自分もビールを飲む人間になることが多い。

ところがビール会社には申し訳ないが、ビールは労働者階級の飲む卑しい飲みものであるなどと考える社会階層がアメリカには存在する。そのような家庭ではワインなどのアルコール類がふるまわれ、子供たちは成人しても自然とワインをたしなむということになる。

ビールを飲むことが当たり前だと思っていた子供たちは、ワインのまえでぱおじけづいてしまうか、あるいはワインを飲むのは気取り屋のすることだとして、かえってワイン飲みを軽蔑することになる。

2012年8月1日水曜日

ピークを過ぎた「山ガール」ブーム。しかし裾野は広がった。

散々、既出かもしれないが、「山ガール」ブームのピークは過ぎたようだ。先日、ティムコのアウトドアブランド「フォックスファイヤー」の展示会にお邪魔した。ティムコは釣り具メーカーから、ウエアも含むトータルなアウトドアブランドへと転換した異色の会社である。担当者によると「山ガールブームによって女性客が大幅に増え、アウトドアのすそ野は広がったが、当社ではブームのピークは過ぎたと見ている」という。

「山ガール」という呼称には以前から非常に違和感を持っている。どう見ても「ガール」でも「女子」でもない年代の女性が多数含まれているからである。「山女(やまおんな、やまじょ)」「山オバ」「ヤマダム」あたりの呼び名がしっくりくるように思う。ちなみに渓流魚のヤマメは漢字では「山女」と書く。

山ガールブームのピークは終わったと言っても、女性のアウトドアファンはある程度の人数を維持したままになる。彼女らの次の興味は魚釣りに移るのか、山の風景を撮影するアウトドアカメラに移るのかはわからない。あるいはその両方に分散するのかもしれない。山ガールというブームが盛り上がったおかげで、アウトドアウエアもずいぶんとデザイン化が進み、カラフルにそしてスマートに進化した。そういう意味では女性ファンの存在は大きかったと言える。

そんな中、アウトドア業界関係者によると、「ザ・ノースフェイス」の売り上げが好調であるという。もちろん女性客にも支持されている。「ザ・ノースフェイス」の好調が特筆されるべき理由は、通常の「山ガール対応」をしていないからだ。山ガール向けに各ブランドは、色柄をカラフルにかわいく変化させてきた。しかし、「ザ・ノースフェイス」は、シャープでスマートではあるものの、それほどカラフルな色は多用しない。むしろ、今季はダークでシックである。

通常のアパレル業界に置き換えれば、「カラフルというトレンド」を無視しているにも関わらず、トレンド層の消費者から支持を集めているという状態にある。これが可能であるなら、アパレル業界の各ブランドは何も苦労しないだろう。消費者は「ザ・ノースフェイス」というブランドに特別なステイタス性を感じていると思われる。

そこに至るまでには長い時間が費やされている。「ザ・ノースフェイス」を日本で展開し続けてきたゴールドウィンの粘り勝ちと言えるかもしれない。釣り具メーカーから転身してトレンド性と機能性を兼ね備えた自社ブラン「フォックスファイヤー」を開発するに至ったティムコ。長い年月を費やして、「ザ・ノースフェイス」のステイタス性を確立したゴールドウィン。この2社の取り組みをアパレル業界各社は参考にすべきではないだろうか。

2012年7月18日水曜日

商船三井の海運市況リスク分散

海運大手、商船三井の財務部が「船種別海運市況の相関関係と商船三井の事業リスク分散」というリポートをまとめた。昨年は鉄鉱石などを運ぶばら積み船の運賃や用船料が急騰し、今なお歴史的な高値水準にある。株式市場で海運株が物色されただけでなく、輸入経費が上昇した大豆など商品先物市場の相場をも動かす材料となった。いずればら積み船運賃が下がれば、同社の業績も悪化するのではないか、との見方を否定するのがこのリポートの趣旨だ。

要旨を紹介するとコンテナ船、ばら積み船、タンカーなど同社が展開する様々な貨物船運賃は個別にみると市況性が強いが、それぞれに相関関係はなく、ある船種の市況が低迷しても他の分野がカバーし、常に安定した収益が確保できる企業体質になっているというものだ。市況変動の激しい短期契約運賃ばかりでなく、安定利益が見込める長期契約の事業も多い、としたうえで過去5年間の運賃や業績データをもとに検証している。

同業の大手よりもばら積み船など不定期船の事業依存度が高く、内外の社債格付け機関などが「市況産業」という概念にとらわれて、過小評価しているのではないか。さらに最近は最大手の日本郵船が陸上の物流業務や子会社の貨物専門航空会社、日本貨物航空を抱え事業を多角化しているのに対し、商船三井は海運業偏重の「一本足打法」と批判する向きもあるというのがリポート作成の動機、と同社財務部は説明する。

確かに過去の海運の歴史を振り返ればばら積み船市況は1―2年の好況の後に7―8年の低迷の時期が続くことが多かった。四半世紀近く前には小型ばら積み船を大量に建造した海運会社が経営破綻した事例もある。

同社のリポートはそうした見方に対し、データを積み重ねて反論したものだ。海運といっても連結対象会社を含めれば、旅客船、フェリー、自動車専用船など様々な事業がある。実際、今はコンテナ船やタンカーが苦戦しているが、ばら積み船が巨額の利益(2008年3月期の第3四半期までの累計経常利益で2050億円)をあげている。

一方で、社内からは外航ばら積み船の短期契約運賃指標であるバルチック海運総合指数が少しでも低下すると商船三井株が売られ、時価総額が揺さぶられる現状に対する不満の声も聞こえてくる。

さきにあげたばら積み船の変動パターンも含め、これまで語られてきた海運市況は過去の経験則に基づくものが多い。今回のリポートはデータを積み重ねて検証を試みた点で海運市況をみる物差しをつくろうという点では興味深い。

もっとも運賃・用船料だけの変動を分析した今回の検証はさらにレベルアップの余地がありそうだ。運賃に輸送量、輸送距離の要素を加味した検証がなされれば、さらに説得力を増すだろう。またコンテナ船運賃は今秋以降、欧州航路など主力航路で運賃同盟の独占禁止法の適用除外の見直しが始まる。ばら積み船は最近、運賃先物(FFA)の相場変動が実際の運賃市況にも大きく影響するようになっている。こうした状況変化を踏まえた多角的な市況分析ができれば、荷主や株主など関係者にもさらに説得力のある説明ができそうだ。

2012年7月5日木曜日

高嶋政伸・妻・美元の離婚原因は盛大過ぎる誕生会?

現在、裁判離婚中という状況にある高嶋政伸(44)と妻の美元(32)。昨年8月に別居し、翌9月に離婚調停にはいったものの決裂。この3月、とうとう政伸が裁判を申し立てた。

7月11日にも第3回の公判が行われたことを明かし、原因は「主にお互いの性格の不一致、考え方(生活観、仕事観)の相違」にあると説明した。結婚会見では、「分身と思うくらい共通の価値観がある」と話していたふたり。なぜ、こんなにもすれ違ってしまったのか?

美元は日本人の父と韓国人の母、そして兄の4人家族だったが、体の弱かった母は美元が9才のときに亡くなった。つらくて悲しくてどうしようもない彼女を慰めてくれる友達はいなかった。美元を知る人は「当時はかなりひどいいじめにあっていたそうです」とも話している。

経済的にあまり裕福でなかったこともあり、地元商店街でのアルバイトなどを4つかけ持ちし、10代後半ながらわずか1年半で500万円を貯めた。2000年度準ミス・ユニバースジャパンを受賞。同時に、彼女自身も変わっていった。そんなときに挑戦したある企業のイメージガールコンテストで、ミス・ユニバースの大会への出場のきっかけをつかむ。

「ミス・ユニバースは最終選考のときに”安物ではなく、ブランド物を身につけなさい”と教えられるんですが、彼女は一気にブランド志向になったんです。でもミスになって、いきなり大金や仕事が舞い込むわけじゃないから、彼女も当時はまだファミリーセールの招待状が来れば欠かさず行く常連だったし、古着を着てくることもありました。交友関係も一気に派手になったから世界が変わったと思いますよ」(ミス・ユニバース関係者)

そんな彼女は、毎年なくてはならない恒例行事となった。そしてそれは、いつからか自分自身の誕生日会を企画するようになった。「人が人を呼んで、200人くらいなんだろう(苦笑)」(前出・美元を知る人)つらい幼少期を過ごしたこともあってか、美元はこんなに”友人”が来てくれたという事実に酔いしれた。

「政伸さんと結婚してからは、優雅な高嶋ファミリーの一員になれたことが自慢だったし、彼らに認められたことが誇りでもあった。だから、その名に恥じないようにと、パーティーも盛大になっていきましたよ」(前出・美元を知る人)

しかし、それは政伸との価値観の違いをも大きくしていった。昨年6月、東京・青山のレストランを貸し切って行われた美元の誕生パーティーではこんなことがあった。引きつった笑顔で挨拶に立った政伸は美元から「今日のスタッフさんに渡すお金がないから持ってきて」といわれ銀行のATMでお金をおろして駆けつけたことを告白し「美元は本当に突拍子もないことばかりして、みなさんにご迷惑をかけているんじゃないかと思います」と渋い表情でゲストに謝った。が、そんな夫とは対照的に美元は終始うれしそうに笑っているのだった。

2012年5月23日水曜日

商品市場から見たリカップリング論

米国の信用力の低い個人向け住宅融資(サブプライムローン)問題は米国の実体経済だけでなく、中国などの新興国にも波及するとの見方が台頭している。米景気が減速しても新興国がけん引して世界需要は衰えないと読み、株価低迷と対照的に上昇していた商品価格も市場の不安を映して株価の動きを気にするようになった。

米国ではバブル膨張による実勢を超えた住宅価格の上昇と株高、過剰消費の反動は避けられない。「成長の中心」は中国などの新興国に移行したとはいえ、国内総生産(GDP)規模で世界の4分の1を占める米国がマイナス成長(リセッション)に陥れば世界景気の足を引っ張り、商品市況への影響も予想される。

昨年から、「米国景気が落ち込んでも新興国への影響は少ない=デカップリング(非連動)」「やはり連動する=リカップリング」という議論が盛んだ。しかし、商品市場から見れば答えはどちらか一つというほど単純なものではない。米景気の落ち込み具合はもちろん、分野によっても温度差は大きい。

例えば主要商品の中で最も景気に敏感とされる非鉄金属。乱高下を繰り返す世界の株式に比べ、値動きは驚くほど落ち着いている。ロンドン金属取引所(LME)の銅3カ月先物は、直近の高値である昨年10月の1トン8315ドルからの調整幅は昨年11月の安値(6317ドル)までで24%。現在の後退より軽い「米景気の失速懸念」を背景に調整した06年5月(8800ドル)から昨年2月(5250ドル)までの下落率(40%)の6割にとどまり、足元では昨年10月の高値も上回った。

GDPの規模は米国が世界の4分の1を占めるのに対し、BRICs4カ国合わせても1割強にすぎない。いまだ発展の途上で規模が小さいからこそ成長率が高いのであり、サービス、IT(情報技術)関連の規模が大きな米国に見劣りするのは仕方ない。ただモノの世界と経済規模の構図は少し違う。中国の銅需要は年400万トン以上と既に世界の4分の1、アルミは3分の1を占める。石油こそクルマ大国の米国が4分の1を握るものの、4割近い鉄鋼のほか、セメント、合成繊維、鶏卵など食品分野でも中国が圧倒的なシェアを持つ。

しかも中国の銅需要は半分を電力インフラが占め、次に多いエアコンが約2割。自動車、一般家電向けも増えてきた。米国景気が落ち込んでも、中国の銅需要、とりわけインフラ向けは連動しない。連動するのは米国にも輸出されるエアコンや家電の部品(銅管など)だ。またインフラ整備の比重が高く、エネルギー効率も低いため、資源・素材消費の伸びは経済成長率を上回る傾向にある。

中国が世界最大の消費国に台頭して以降、銅の国際価格は中国の買い付けが増える春節(旧正月)前後から夏まで上昇パターンをたどる。今年も同様な価格上昇があれば中国景気への影響は軽微、失速するようだと中国景気に及ぶリスクが高いと読める。8000ドルを上回る現在の水準から上昇を続ければ夏には1万ドルに迫る可能性さえ否定できない。

一方、景気後退リスクと世界同時株安に背中を押されて米国が打ち出した急ピッチの利下げと景気刺激策はインフレ要因を生み出す。世界の株価が次々と急落する「不安の連鎖」は断たなければならないし、景気後退があっても軽度に抑えたい。だが金融緩和と、それに続くドル安は様々な副作用を伴う。

米国の金融緩和が必要以上に長引けば、インフレ懸念と相まって投資マネーの流入が膨らみ、本来あるべき調整が小幅にとどまったり、需給実勢を無視して価格が上昇したりする可能性さえある。金価格が1トロイオンス950ドルを突破、米原油先物が再び1バレル100ドル台に乗せ、400台に乗せたロイター・ジェフリーズCRB指数(1967年平均=100)には商品市場へのマネー流入が加速する気配が見える。

調整局面はあっても、世界景気のけん引役が米国から新興国へと移行する歴史の流れは変わらない。住宅バブルの崩壊と基軸通貨ドルの揺らぎは歴史転換のスピードを加速させる可能性さえある。だが生産効率の低さや物価統制などの規制が残る新興国には成長過程ゆえの弱さがある。バブルを伴う商品価格急騰は、新興国を中心に世界経済への打撃と、その後の商品価格急落につながる。米国発マネー波乱の影響には引き続き注意が必要だ。

2012年5月14日月曜日

金券ショップ、市場縮小に拍車

手に入りにくいスポーツやコンサートなどのチケットを買い求めようと金券ショップに足を運んだ経験のある人は多いだろう。だが、最近はヤフーオークションをはじめとするインターネット上にチケットが多く流れている影響で、金券市場の縮小が進んでいる。

「10年前に1兆円規模だった金券市場は2―3割縮小した」と語るのは金券販売大手、大黒屋の松藤俊司社長。原因はネット販売の広がりばかりではない。

ハイウェイカードや高速券は1枚数万円することもあり、金券店では売り上げのおよそ2割を占める主力商品だった。しかし高速道路で自動料金収受システム(ETC)が普及し、紙のチケットが消え始めていることが金券市場の縮小に拍車をかけた。ハイウェイカードや高速券に代わって、航空会社の株主優待券が金券店の主力商品になりつつあるといえるが、単価は下がっているという。

新幹線の回数券も金券店の利幅はせいぜい数百円。今春からJR東海などが始める新幹線のチケットレス予約でも料金は割引になる。これを受けて金券店が割安価格で販売する回数券の需要も今後1―2年間で先細りになる可能性が高い。

こうしたことを背景に、金券店の数も減っている。全国には約2000店の金券ショップがあるとされるが、廃業が進み「ここ3年間で金券店の数は約1割減った」(ラッキーコレクション、伊集院浩二社長)。約3年前に600店近かった日本チケット商協同組合の会員数も2007年12月末時点で553店に減少している。

金券販売の利幅は小さい。東京で平均3―5%、大阪で2%程度とされる。商品の縮小やネット販売の拡大を受けて金券店1店当たりの売上げは年間5―10%のペースで落ちているという。大黒屋の07年3月期の全売上高は約650億円。このうちチケットは545億円、中古ブランド品は100億円。チケットが前期比約3%減る一方で中古ブランド品は約10%増と伸びており、ブランド品販売で金券の売り上げ減をカバーしている状況だ。外貨両替サービスを始める金券店も増えており、金券以外で収益の拡大方法を模索しているようだ。

2012年5月3日木曜日

家庭へ広がる企業向けサービス

このあいだ職場の送別会で使ったレストラン、安くておいしかったなぁ。今度家族でも食べに行ってみようか」。こうした経験がある人もいるのではないだろうか。職場で経験して良さを実感したものを家庭生活で取り入れてみる。そんな動きがサービス業にも広がっている。

企業のオフィス内に大型の飲料水タンクを見かけることが増えた。職場に飲料水を配達するサービスが拡大しているのだ。複数のサービス会社によると契約した配達先は前年比3割程度増えているという。

その1つであるナックでは「企業だけでなく、最近は家庭に配達するケースが増えた」と説明する。同社が抱える配達先は約20万件で、このうち4割が一般家庭だ。

同社が飲料水配達に参入したのは2002年。当初は企業向けが中心だったが「次第に家庭からも注文が舞い込み始めた」という。職場に配達された飲料水に便利さを感じ、自宅でもサービスを利用したいと考える人が増えたためだ。

利用者をひき付けたのは安さだ。同社の料金は標準の12リットル入りボトルが1本1200円(税抜き、配達と空ボトルの回収コスト込み)。1リットルに換算すると100円とコンビニエンスストアで売られるミネラルウオーターより割安だ。

ミネラルウオーターなど“こだわりの水”で炊事する家庭は以前から増えていた。こうした家庭から見れば「配達サービスなら重いペットボトル入りの水を買い出しに行かなくても済むし、大量の空ボトルを資源回収に出す手間がなくなる」(ナック)という。同業のサービス会社には今後も事業所主体の営業路線を示すところもあるが、ナックは「ウチは一般家庭も積極的に顧客として取り込みたい」と話す。

掃除、洗濯などを請け負う家事代行サービスもすそ野が拡大している。大手のベアーズ(東京・中央)は05年からサービス利用の法人契約を始め、現在では150社近くの企業が利用している。法人契約の場合は通常料金より5―10%割り引いている。

「出産した従業員が円滑に働けるように雇用主として支援できないだろうか、と経営者から相談されたことが法人契約を始めたきっかけ」と同社の高橋ゆき専務は語る。

法人契約のサービスを利用した顧客が内容に満足し、そのあとに個人契約で家事代行を利用するケースも増えているという。具体的な料金を知り、サービスも金額にふさわしいものだと知る人が増えたということだ。

これら2つの例には共通項がある。一昔前なら「飲料水や家事にお金をかけたくない」との先入観を持つ人がいたということだ。しかし、勤務先でサービスの内容や料金水準を知れば、先入観は薄らぐ。

内容が代金に見合ったものなのか。新興のサービス業では常につきまとう問題だ。認知度の向上や販促の手法として、“職場発”が広がる可能性があるのかもしれない。

2012年4月26日木曜日

金、1000ドル乗せ目前での需要失速

金価格が年明けから騰勢を強め、ロンドン渡しの現物は1980年1月に付けた1トロイオンス850ドルの過去最高値を更新した。900ドルもあっさり超え、一時は1000ドル乗せも時間の問題といわれた。だが高騰の反動で宝飾品など実需が冷え込んでいることが浮き彫りになった。

金の調査機関ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)のまとめによると、2007年10―12月期の世界需要は843トンで前年同期を17%下回った。07年通年では4%増えたが、1―9月までに13%伸びていた増加基調からは一転した。

最大消費国であるインドの減速が大きい。1―9月の需要は前年同期比40%増えたが、10―12月期は同64%減と急ブレーキがかかった。インドでは今年1月の輸入量も5トンと前年同月の8%にとどまったという。値動きの荒さが敬遠され、買い控えが広がった。

米国も10―12月の需要は17%減の110トンと失速した。サブプライムローン(信用力の低い個人向け住宅融資)問題による不安心理が、堅調だった高額品の消費にも及び、宝飾品の購買意欲が落ち込んだ。この結果、通年での金消費量は中国に抜かれて世界3位に転落した。

7―9月期のロンドン金価格の平均は680ドル。10―12月期は786ドル。800ドル近辺の水準は、宝飾品用途としてはまだ認められていないといえる。

昨年からの原油や貴金属など商品価格の高騰は、米国経済が減速しても新興国が補うというデカップリング(非連動)論が一つの根拠となっていた。ただ年明け後も大手金融機関の損失計上が続き、雇用や消費の悪化を示す指標が出るに及び、米国に合わせて新興国経済も減速するとするリカップリング(再連動)論ががぜん現実味を帯びてきた。

米国景気が後退すれば、対米輸出に支えられた新興国経済にも影響が及ぶ。株や債券への不安を背景に分散投資先としての金需要は高まる可能性があるが、宝飾品需要の落ち込みが遠からず注目されよう。逆にサブプライムローン問題が解決に向かえば、信用不安は一巡、金に流れていた資金が株式市場などに逆流することもあり得る。

金市場関係者の間では「年内に一度は1000ドルを見ないと収まらない」というのが共通認識となっている。ただ実需の急減速は、仮に大台を付けても定着は難しいことを暗示しているといえそうだ。

2012年4月22日日曜日

安さだけじゃない農産物直売所の魅力

スーパーに比べて価格が1―3割安く、収穫したてのものが店頭に並ぶ農産物直売所の売り上げが増加傾向にある。都市農山漁村交流活性化機構機構(東京・中央)の調査によると、回答した1436店の平均売り上げは年間9697万円。4年前の調査時より9%増加した。

農産物直売所の数は個人でやっているものを含めると推計で現在、全国に15000店、総売り上げは1兆円規模という。既存の流通市場にも影響を与えていきそうだ。

なぜスーパーより安いのか。直売所の売価は出荷者である生産者が決める。スーパーで販売する場合、生産者から農協、市場の卸会社、仲卸会社を経由することが多いため、流通経費がかかるが、直売所にはそれがない。

直売所では生産者自身が店頭に搬入することも多く、搬入の経費も最低限で済む。搬入している生産者との会話を楽しみにしている客も多いそうだ。

既存の流通経路に乗らない規格外品も安価で販売している。スーパーで並んでいる青果物は、大きさや見た目が農協などの出荷基準に合ったものだ。大きすぎたり小さすぎたり形が悪かったりすれば規格外品となる。そんな規格外品でも味がいいものはたくさんあるので、直売所では販売している。規格に合ったまっすぐなキュウリが3本100円ならば、曲がったキュウリは6本100円といった具合だ。

収穫したてを店頭に並べられるため、完熟ものも多い。市場には出回らない珍しい野菜も置いている。新鮮な野菜が欲しいだけでなく、画一化しているスーパーの青果物売り場に飽きた消費者から受け入れられているようだ。

2012年4月18日水曜日

穀物高騰、ウズラ卵も直撃

ウズラの卵は小粒で、納豆と混ぜたり、ざるそばのタレに入れたりするのに手ごろな食材。現在スーパーの店頭では、大体1パック(10個入り)で90―100円で売っている。これが4月以降は10円強、値上がりする公算が大きい。生産・出荷会社が値上げに動いているためだ。大手量販向けでは1パック当たり13円前後の引き上げを求めている。

ウズラの卵の卸値は2001年以降、ほぼ横ばいで推移してきた。ただ2月以降、上昇基調を強めており全国最大の豊橋市場では6%、東京市場でも7%上がった。値上がりの最大の要因は穀物高だ。豊橋養鶉(ようじゅん)農業協同組合は「飼料価格が4年間で5割強上がり、値上げしないと農家の経営が成り立たなくなる」と説明する。「ヒナを育てるための暖房用灯油も倍の値段になった」ため、生産農家の数自体が減っている。

国内でのウズラ飼育数は1990年代には約800万羽だったが、現在は600万羽程度に減った。供給が締まっていることもあり、今回の値上げは店頭にも浸透するとみられている。ゆで卵などとして外食・総菜店や学校給食向けに加工して出荷する業務用は、昨秋に3割近く値上げしている。

投機資金の流入もあって穀物や原油の国際価格が上がり、農家の経営を圧迫しているのは牛や豚、鶏など畜産全般に共通する課題だ。値上げの動きはさらに広がるとみた方が良いだろう。大豆や輸入するソバの実も値上がり傾向にあることを考えれば、納豆やざるそばの値上げも考えられる。気が付いたらそば店や定食屋の価格がちょっと上がっていた、という日が近づいているのかも知れない。

2012年4月10日火曜日

原油高騰、米国が寛容なワケ

ニューヨーク原油相場が1バレル100ドルを突破し、騰勢を強めている。米国など消費国は増産を渋る石油輸出国機構(OPEC)を批判するが、原油高の震源地は産油国でも新興国でもなく米国だ。米連邦準備理事会(FRB)の度重なる利下げがドル安を促し、年金基金などのマネーをドル資産から原油など国際商品に呼び込んだ。

気になるのは米国の政策が原油高の主因であるドル安に対して寛容にみえる点だ。バーナンキFRB議長はインフレ懸念が強まっているにもかかわらず追加利下げを示唆している。ブッシュ大統領も戦略石油備蓄の取り崩しなどの原油高対策に自ら動こうとしない。

FRB議長はドル安が貿易赤字縮小につながるとの判断を示している。ガソリン高で苦戦している米自動車産業などにとって輸出面の恩恵は大きい。それ以上に見逃せないのが原油高とドル安が米国の農産業にプラス効果をもたらすことだ。

米国では高値の続くガソリンの代替燃料として、トウモロコシ由来のバイオ燃料、エタノールの需要が急拡大している。原油相場が上がるほどエタノールの競争力が高まって穀物需要が拡大し、農家の収益が潤う。ドル安も米国にとって農産物の輸出増につながる。

ドル安と原油高の同時進行は世界経済における米国の影響力低下を印象づけた。だが米国には原油に勝るとも劣らず重要な穀物資源がある。中国などが穀物輸出を抑制すれば、需要国は米国への依存度を一段と強める。米国がドル安・原油高に寛容にみえる背景には、こんなしたたかな読みもあるのかも知れない。

クロマグロ、漁獲枠削減でも高値には限界

東大西洋と地中海のマグロ資源を管理する大西洋まぐろ類保存国際委員会(ICCAT)の臨時会合が、3月26―27日に東京で開催された。参加した13カ国の政府代表や生産者、流通関係者は、漁獲規制の強化に向けた共同声明を採択し、11月の本会合に向けて一定の道筋をつけた。市場では今後、価格上昇は避けられないとの見方が支配的だ。しかし、消費の落ち込みなどを背景に、右肩上がりの値上がりについては懐疑的な声も多いのが実態だ。

ICCATは2006年、2010年までに漁獲枠を段階的に2割削減することを決定した。その後、日本商社の現地買い付け価格は2―3割高くなった。国内の小売店の店頭でも、それまで見られた100グラム980円といった特売はほとんど姿を消した。しかし、値上げに消費は追いついていない。景気は一段と不透明感を強めており、「安いものから売れている状態。クロマグロも例外ではない。販売量は1―2割落ちている」(鮮魚専門店)といった声が多い。築地市場でも「荷動きは停滞しており、高値唱えは通らない」(卸会社)。

地中海クロマグロの約7割前後は日本向けだ。世界的な魚食ブームを受けて、欧米や中国などで需要が増えているのは確か。しかし消費量の大半を日本が占めている状況は、5年、10年の期間では変わらない。「日本の消費が現状のまま落ち込めば、価格上昇にはおのずと限界がある」(卸)と見られる。

商品そのものに対するマイナスイメージが高まることも相場には弱材料だ。世界自然保護基金(WWF)などは、ICCATの規制が機能していないとして、欧州を中心にクロマグロの不買運動を活発化させている。この矛先が、クロマグロ最大の買い付け先である日本の商社や小売店に向けられる可能性は十分ある。このまま蓄養のために天然マグロを乱獲し続ければ、「畜養マグロ=資源悪化の張本人」という図式が定着しかねない。消費者が買いを手控え、価格が急落する可能性もゼロではない。

今回の東京会合では、日本商社などにも発言権が与えられた。しかし、実際には発言はほとんどなかったという。有数の扱い量を誇る大手商社からは「自然保護団体から攻撃を受けて企業イメージが落ちることは避けたい。ほどほどの価格上昇でおさまる漁獲規制になってくれれば」。そんな本音の声が漏れているという。

2012年4月8日日曜日

小沢氏の起訴議決執行停止など、申し立て却下。

小沢一郎・元民主党代表(68)の資金管理団体「陸山会」の政治資金規正法違反事件で、東京地裁(川神裕裁判長)は18日、小沢氏を「起訴すべきだ」とした東京第5検察審査会の議決の執行停止と、小沢氏を起訴する検察官役の指定弁護士の選任の仮差し止めを求めた小沢氏側の申し立てについて「刑事裁判で争うべきだ」として、いずれも却下する決定をした。

小沢氏の弁護士によると、決定は、検察審査会の議決について「準司法機関の手続きで、(行政訴訟の対象となる)行政処分には当たらない」と指摘。小沢氏側は「議決には重大な欠陥があり、起訴の手続きを止めるべきだ」と主張したが、決定は「起訴後、刑事裁判で公訴棄却を申し立てて争うべきだ」として退けた。小沢氏側は東京高裁への即時抗告を検討するとしている。

小沢氏は、陸山会が2004年に購入した土地の代金を05年分の政治資金収支報告書に記載したとして政治資金規正法違反(虚偽記入など)容疑で告発されたが、同審査会は2回目の審査で、土地購入の原資となった小沢氏からの借入金4億円を04年分の収支報告書に記入しなかった点も「犯罪事実」に加え、9月14日付で起訴議決をした。

これに対し、小沢氏は、強制起訴には2度の議決が必要なのに、「4億円」は1度目の議決を経ておらず違法だと主張。議決の執行停止などを求めた。

小沢氏は、国に起訴議決の取り消しや指定弁護士の選任差し止めを求める行政訴訟も起こしているが、審理が本格化するまでに1~2か月はかかるとみられる。同地裁は今月中に指定弁護士を選任し、強制起訴に向けた手続きが予定通り進む見通しだ。