2012年7月18日水曜日

商船三井の海運市況リスク分散

海運大手、商船三井の財務部が「船種別海運市況の相関関係と商船三井の事業リスク分散」というリポートをまとめた。昨年は鉄鉱石などを運ぶばら積み船の運賃や用船料が急騰し、今なお歴史的な高値水準にある。株式市場で海運株が物色されただけでなく、輸入経費が上昇した大豆など商品先物市場の相場をも動かす材料となった。いずればら積み船運賃が下がれば、同社の業績も悪化するのではないか、との見方を否定するのがこのリポートの趣旨だ。

要旨を紹介するとコンテナ船、ばら積み船、タンカーなど同社が展開する様々な貨物船運賃は個別にみると市況性が強いが、それぞれに相関関係はなく、ある船種の市況が低迷しても他の分野がカバーし、常に安定した収益が確保できる企業体質になっているというものだ。市況変動の激しい短期契約運賃ばかりでなく、安定利益が見込める長期契約の事業も多い、としたうえで過去5年間の運賃や業績データをもとに検証している。

同業の大手よりもばら積み船など不定期船の事業依存度が高く、内外の社債格付け機関などが「市況産業」という概念にとらわれて、過小評価しているのではないか。さらに最近は最大手の日本郵船が陸上の物流業務や子会社の貨物専門航空会社、日本貨物航空を抱え事業を多角化しているのに対し、商船三井は海運業偏重の「一本足打法」と批判する向きもあるというのがリポート作成の動機、と同社財務部は説明する。

確かに過去の海運の歴史を振り返ればばら積み船市況は1―2年の好況の後に7―8年の低迷の時期が続くことが多かった。四半世紀近く前には小型ばら積み船を大量に建造した海運会社が経営破綻した事例もある。

同社のリポートはそうした見方に対し、データを積み重ねて反論したものだ。海運といっても連結対象会社を含めれば、旅客船、フェリー、自動車専用船など様々な事業がある。実際、今はコンテナ船やタンカーが苦戦しているが、ばら積み船が巨額の利益(2008年3月期の第3四半期までの累計経常利益で2050億円)をあげている。

一方で、社内からは外航ばら積み船の短期契約運賃指標であるバルチック海運総合指数が少しでも低下すると商船三井株が売られ、時価総額が揺さぶられる現状に対する不満の声も聞こえてくる。

さきにあげたばら積み船の変動パターンも含め、これまで語られてきた海運市況は過去の経験則に基づくものが多い。今回のリポートはデータを積み重ねて検証を試みた点で海運市況をみる物差しをつくろうという点では興味深い。

もっとも運賃・用船料だけの変動を分析した今回の検証はさらにレベルアップの余地がありそうだ。運賃に輸送量、輸送距離の要素を加味した検証がなされれば、さらに説得力を増すだろう。またコンテナ船運賃は今秋以降、欧州航路など主力航路で運賃同盟の独占禁止法の適用除外の見直しが始まる。ばら積み船は最近、運賃先物(FFA)の相場変動が実際の運賃市況にも大きく影響するようになっている。こうした状況変化を踏まえた多角的な市況分析ができれば、荷主や株主など関係者にもさらに説得力のある説明ができそうだ。