2012年5月3日木曜日

家庭へ広がる企業向けサービス

このあいだ職場の送別会で使ったレストラン、安くておいしかったなぁ。今度家族でも食べに行ってみようか」。こうした経験がある人もいるのではないだろうか。職場で経験して良さを実感したものを家庭生活で取り入れてみる。そんな動きがサービス業にも広がっている。

企業のオフィス内に大型の飲料水タンクを見かけることが増えた。職場に飲料水を配達するサービスが拡大しているのだ。複数のサービス会社によると契約した配達先は前年比3割程度増えているという。

その1つであるナックでは「企業だけでなく、最近は家庭に配達するケースが増えた」と説明する。同社が抱える配達先は約20万件で、このうち4割が一般家庭だ。

同社が飲料水配達に参入したのは2002年。当初は企業向けが中心だったが「次第に家庭からも注文が舞い込み始めた」という。職場に配達された飲料水に便利さを感じ、自宅でもサービスを利用したいと考える人が増えたためだ。

利用者をひき付けたのは安さだ。同社の料金は標準の12リットル入りボトルが1本1200円(税抜き、配達と空ボトルの回収コスト込み)。1リットルに換算すると100円とコンビニエンスストアで売られるミネラルウオーターより割安だ。

ミネラルウオーターなど“こだわりの水”で炊事する家庭は以前から増えていた。こうした家庭から見れば「配達サービスなら重いペットボトル入りの水を買い出しに行かなくても済むし、大量の空ボトルを資源回収に出す手間がなくなる」(ナック)という。同業のサービス会社には今後も事業所主体の営業路線を示すところもあるが、ナックは「ウチは一般家庭も積極的に顧客として取り込みたい」と話す。

掃除、洗濯などを請け負う家事代行サービスもすそ野が拡大している。大手のベアーズ(東京・中央)は05年からサービス利用の法人契約を始め、現在では150社近くの企業が利用している。法人契約の場合は通常料金より5―10%割り引いている。

「出産した従業員が円滑に働けるように雇用主として支援できないだろうか、と経営者から相談されたことが法人契約を始めたきっかけ」と同社の高橋ゆき専務は語る。

法人契約のサービスを利用した顧客が内容に満足し、そのあとに個人契約で家事代行を利用するケースも増えているという。具体的な料金を知り、サービスも金額にふさわしいものだと知る人が増えたということだ。

これら2つの例には共通項がある。一昔前なら「飲料水や家事にお金をかけたくない」との先入観を持つ人がいたということだ。しかし、勤務先でサービスの内容や料金水準を知れば、先入観は薄らぐ。

内容が代金に見合ったものなのか。新興のサービス業では常につきまとう問題だ。認知度の向上や販促の手法として、“職場発”が広がる可能性があるのかもしれない。