2016年2月10日水曜日

各国通貨のユーロヘの換算

私は経済学者であるが、会計の専門家ではない。むしろ会計学というのは苦手の領域だ。一九九九年一月一日のユーロ誕生の後、企業会計にユーロが利用されることになるということは、一般情報としては知っている。企業会計だけではなく、付加価値税や社会保険もユーロで支払うことができることももちろん知っている。

あるとき、某新聞社の経済記者S君から、「各国通貨のユーロヘの換算に際して、四捨五入によって利益格差が生ずるようですが」と質問され、ハタと返答に窮した。こんな質問に答えられないようでは、ユーロの解説を行う資格はないと思いつつも、その意味が意外に重要であることを直感した。たかが、四捨五入による端数の処理ではないかと思うのは、ネギー本を買うときの庶民の感覚である。しかし、これが何万ユーロを納税する企業となれば問題は別だ。

それから数日間、私は「ユーロ・会計学入門」というフランス語の文献を読みふけった。その内容を全部紹介する余裕はないが、目次からはユーロの導入に企業が本格的に取り組んでいることが一目でわかる。四捨五入問題は「会計上の移転の技術的側面」で取り扱われていた。そのエッセンスだけを紹介する。

まず基本的な前提を再確認しよう。一九九九年一月一日から各国通貨の交換比率は固定された。交換比率は有効数字六桁の通貨単位で構成される。したがって、フランの場合、小数点以下五桁までが問題となる。フランスの場合、証券業務委員会が、企業に対して財務情報をユーロで公表するよう呼びかけた。仮にフランで公表する場合でも決算内容のいくつかの欄、最終決算数字はユーロで示すことを勧告している。いずれにしても二〇〇一年一月三一日までとデッドラインが決定され、金融市場も国際化している現時点でユーロ決算へ移行する企業が圧倒的多数を占めるだろう。

さて、問題の換算規則である。アムステルダム理事会で採択された文書では、企業当事者が当面するであろう四捨五入のさまざまな可能性が示されている。この規則第三条に基づくと、小数点以下第三位の数字が四捨五入の対象となる。この本では次のような例が挙げられている。ひとつはユーロからフランへの換算、もう一つはフランからユーロヘの換算である。