2013年7月4日木曜日

公的支出の費用対効果が極めて高い外国人観光客誘致

「観光は、農業から、製造業、建設業、不動産業、金融業、その他サービス業まで、あらゆる地域産業を活性化する総合産業です」というのは、私の尊敬するこの分野の一大実践者兼論客、観光カリスマの山田桂一郎さん(スイスーツェルマット在住)の指摘ですが、この明らかな事実に気づかずに「日本はモノづくり(だけ)の国」と言い張って、しかも内需対応ではなく輸出だけに注力してきたことを、我々は今度こそ真剣に反省せねばなりません。観光はモノの内需も増やすのです。しかしビジョンはともかく、潜在的な市場をどうやって顕在化していくかという戦略・戦術に関しては、多大な工夫と努力、過去のやり方との湖距が求められます。

特に最大のボトルネックが、旅行代理店、宿泊業者、自治体の観光担当や観光協会、という既存観光関係者の「惰性のトライアングル」です。これは私か山田桂一郎さんなどと一緒に数多く講演させていただいている分野なのですが、その詳細は一冊の本をなすべきものなので、今回まったく触れていないまちづくりの話と同様、別の機会に譲らせていただきます。以下では、残された論点である政府の関与の話について補足するにとどめることをお許しください。私はこれまで随所で、「政府に景気対策を要求する前に、企業が生き残りのための行動としてまず自助努力すべきだ」と語ってきました。外国人観光客増加に関しても、既存観光関係事業者の努力が一丁目一番地であるという認識は変わりません。ただこの分野に関しては、諸外国に比しても日本政府の関与が極めて少ないので、その問題も指摘させていただきます。財源がない政府ではありますが、外国人観光客誘致は、費用対効果から考えればもっと歳出を回すべき分野の典型に思えるのです。

日本政府も、観光立国を掲げ、観光庁を設置するなど、観光分野に注力し始めました。しかし彼ら担当者の努力にもかかわらず、観光分野への実際の政府予算配分は微々たるものです。たとえば外国人観光客を誘致するのが任務の「日本政府観光局」。世界各国が持っている組織ですが、日本の場合には観光庁所管の独立行政法人「JNTO」がこれに当たります。この組織の存在自体をご存じでしたでしょうか。このJNTOの年間予算は〇八年度で三四億円。うち政府の補助は二〇億円のみで、あとは民間企業の賛助金や自前の調査・統計の売上など。職員数は海外事務所の現地採用含め一四〇人弱といったところです。これに対して、たとえば人口が日本のニ八分の一しかないスイスの政府観光局(同じく特殊法人)では、。職員が二二〇名余り、年間予算は七〇億円程度(うち政府補助四二億円)です。

ちなみにスイスは連邦制国家でして、もちろんこれ以外に各地域が観光のプロを養成して自前の観光局を持っています。人口が日本の二五分の一のシンガポールを見ますと、職員が五七〇名、年間予算はこ一〇億円となっています。国力や人口に比して、日本では余りに国際観光に力が入っていないということがおわかりでしょうか。実際にもマンパワーや予算に余りに制約が大きいもので、外国人観光客誘致の本当のプロの育成が十分にできていませんし、海外事務所などの現場は「いくらでもやるべきこと、できることはありながら、手が回らない」という厳しい現実に直面しています。

何も、「人口比でシンガポール並みに、年間三千億円かけろ」というつもりはありませんが、たとえばこの予算を(たったの) て○○億円増やした結果として、外国人観光客の国内消費が年間一兆円から二兆円へと倍増するとすれば、兆円単位を使ってもその全額が消費に回るとはまったく限らないいろいろな給付金だの手当てだのに比べても、恐ろしく効率のいい買い物です。現実に政府が「ビジットージャパンーキャンペーン」を始めてからの一〇年弱で、日本を訪問する外国人の数も国内で消費する額も倍以上に増えているのですから、決して空想を語っているわけではありません。いまどき政府関与の潜在的な経済効果がこんなにある分野は、なかなか存在しないのではないでしょうか。なぜこの成長機会が放っておかれたのでしょう。