2015年6月10日水曜日

追加的な負債増加能力

国内流動性の過剰創出とその収縮過程でべフルの発生と崩壊が起こっているとすれば、金融面では見事な非対称性が生じる。バブルの膨張期においては、株式や不動産への投機家側に立てば、バランスーシート上は資産サイドと負債サイドが両建てで拡大する。負債に依存して資産を増加させても、市況の騰貴が当初の負債に対する担保負担を大きく凌駕してしまう。

すると追加的な負債増加能力が生じることになる。これが繰り返される過程、がバブルの生成期になる。一方、バブルが何らかの原因で収縮期を迎えると、株価や不動産市況の急落を反映してバランスーシート の資産サイドの実体的価値が縮小する。だが、負債サイドは、借金の元本を返済しない限りは縮小しない。すなわち、株価などの大幅な下落が生じると、それに合わせてバランスーシート上での資産サイドの価値が減価するとしても、負債サイドは縮小しないといっか非対称的な動きとなる。

バブル期に投機家への貸し手であった金融機関側に立ってこの状況をみると、バランスーシートの資産サイドには貸出金が計上されているものの、この資産の実体的価値が大きく減価していること、か判る。そしてこの貸出金が、悪くすれば不良資産へと転化する。また、株価や不動産市況の騰貴があまりにもいき過ぎたものであれば、それに付随して、バブル崩壊期には不良資産が膨大な規模となる。

金融機関にとっては、バランスーシート上の負債は預金の受入れや債券発行により調達したもの、及び他の金融機関からの借入金などである。また、これらの負債は、バブル崩壊を反映して資産である貸出金の実体的価値がいくら下落するとしても、決して減少しない のである。そして、この資産サイドと負債サイドの非対称性こそが、いき過ぎたバブルが崩壊した場合に、金融システムを不安定化させる根本的背景となる。

金融システムの不安定性を強めるもう一つ別のメカニズムは、経済活動の金融的側面と実物的側面との間における相互作用である。九〇年初めから始まった今回のバブル崩壊の影響は、当初は金融面に強く出てきた。これが実体経済にデフレ的悪影響を及ぼしてくるには若干のタイムーラグがあったものの、ひとたび実体経済の後退が始まると、今度はそれが金融面に跳ね返りだしたのである。そして、これが金融システムの悪化に追加的インパクトを及ぼすことになった。まさに悪循環過程の定着といえた。九二年に入って、株式市場が金融システムの危機に対して警戒シグナルを送りだしたのは、こうした状況を背景にしたものであった。