2015年12月10日木曜日

もともとは債券が評価対象

実際に為替レートが切り下げられると、輸入物価の上昇や外貨債務の返済負担の増加などによって経済運営に悪影響が及び、格付け機関は再び格下げを行わなければならない羽目に陥ることになる。このような短期資本の活発な移動が、格付けに対する反応をこれまでとは異なるものにしている。九八年十一月のAPEC首脳会議の宣言には、国際的に移動する短期資本の流れを監視する指針をつくることに加えて、格付け会社(APECは格付け機関が民間企業であるので格付け会社と呼んでいる)の活動を再点検することが盛り込まれた。

原因は、格付けの意味がよく認識されていないことである。特に、拓銀や山一についてはヽ不良債権の額や財務内容の悪化から破綻はやむを得なかったものと思われるが、格付けが過剰に報道された。格付けは、債券や預金、保険などについての償還の確実性の程度を簡単な記号によって示すものである。したがって、社債、国債、外債の保有者や、預金者、生損保の加入者などがリスクの情報として利用するものである。

格下げが行われると、むろん株価への影響も考えられるが、株式はもともとリスクを負担する資本であり格付けの対象にはならない。格付けは、契約によって償還や支払いを約束したものが約束通りに返済されるかどうかを判定するものである。高利回り債(通称シャングーボンドと呼ばれる)のようにリスクが高い債券、すなわち格付けが低い債券でも、契約通りに高利回りを支払いできれば社会における存在価値は高く認められる。トリプルB以上の債券は「投資適格」と称されるが、ダブルB以下の債券は償還の確実性の観点から「投機的」と呼ばれるのであって「投資不適格」であるわけではない。

格付けが、本来の目的を離れて企業の品格や企業の価値の尺度として使われると「負の循環」が発生するようになる。こういった事情から一九七〇年代の初めまで、ニューヨーク州では銀行に対する格付けが法律によって禁止されていた。格下げによって預金の引き出しが発生し、銀行倒産が起きるのを防止するためであった。日本では、最近までは格付けが何であろうと実害がなかった。しかし、急テンポで市場経済化している今日、格付けが重要になってきている。格付けに対する正しい理解がないと、市場が混乱するばかりでなく個々の企業も投資家も実害を被る。一九九七年頃から急に格付けがクローズアップされてきたのも、日本経済のこのような環境変化を反映しているのである。

格付けの評価対象は、もともとは債券だけであった。債券には、民間企業が発行する普通社債・転換社債と国や地方公共団体が発行する国債、地方債、政府機関債などがある。債券の英語名は、ボンド(通常、無担保のもの)あるいはディペンチャー(担保付き)であるが、要するに証券のうちの負債(ぽ巳を債券と称している。負債は金利や元本の返済時期・方法があらかじめ決まっているので、その通りに返済できるかどうかを評価して貸し手(投資家)に情報として知らせるのが「格付け」である。証券のうちの株式(普通株式)は、返済されず、配当もあらかじめ決まっているわけではなく利益の状況によって変化するので、「格付け」の対象にはならない。ただ、優先株式は配当率や優先の程度などがあらかじめ決められているので、その通りに行われるかどうかについて「格付け」の評価対象となる。