2012年5月23日水曜日

商品市場から見たリカップリング論

米国の信用力の低い個人向け住宅融資(サブプライムローン)問題は米国の実体経済だけでなく、中国などの新興国にも波及するとの見方が台頭している。米景気が減速しても新興国がけん引して世界需要は衰えないと読み、株価低迷と対照的に上昇していた商品価格も市場の不安を映して株価の動きを気にするようになった。

米国ではバブル膨張による実勢を超えた住宅価格の上昇と株高、過剰消費の反動は避けられない。「成長の中心」は中国などの新興国に移行したとはいえ、国内総生産(GDP)規模で世界の4分の1を占める米国がマイナス成長(リセッション)に陥れば世界景気の足を引っ張り、商品市況への影響も予想される。

昨年から、「米国景気が落ち込んでも新興国への影響は少ない=デカップリング(非連動)」「やはり連動する=リカップリング」という議論が盛んだ。しかし、商品市場から見れば答えはどちらか一つというほど単純なものではない。米景気の落ち込み具合はもちろん、分野によっても温度差は大きい。

例えば主要商品の中で最も景気に敏感とされる非鉄金属。乱高下を繰り返す世界の株式に比べ、値動きは驚くほど落ち着いている。ロンドン金属取引所(LME)の銅3カ月先物は、直近の高値である昨年10月の1トン8315ドルからの調整幅は昨年11月の安値(6317ドル)までで24%。現在の後退より軽い「米景気の失速懸念」を背景に調整した06年5月(8800ドル)から昨年2月(5250ドル)までの下落率(40%)の6割にとどまり、足元では昨年10月の高値も上回った。

GDPの規模は米国が世界の4分の1を占めるのに対し、BRICs4カ国合わせても1割強にすぎない。いまだ発展の途上で規模が小さいからこそ成長率が高いのであり、サービス、IT(情報技術)関連の規模が大きな米国に見劣りするのは仕方ない。ただモノの世界と経済規模の構図は少し違う。中国の銅需要は年400万トン以上と既に世界の4分の1、アルミは3分の1を占める。石油こそクルマ大国の米国が4分の1を握るものの、4割近い鉄鋼のほか、セメント、合成繊維、鶏卵など食品分野でも中国が圧倒的なシェアを持つ。

しかも中国の銅需要は半分を電力インフラが占め、次に多いエアコンが約2割。自動車、一般家電向けも増えてきた。米国景気が落ち込んでも、中国の銅需要、とりわけインフラ向けは連動しない。連動するのは米国にも輸出されるエアコンや家電の部品(銅管など)だ。またインフラ整備の比重が高く、エネルギー効率も低いため、資源・素材消費の伸びは経済成長率を上回る傾向にある。

中国が世界最大の消費国に台頭して以降、銅の国際価格は中国の買い付けが増える春節(旧正月)前後から夏まで上昇パターンをたどる。今年も同様な価格上昇があれば中国景気への影響は軽微、失速するようだと中国景気に及ぶリスクが高いと読める。8000ドルを上回る現在の水準から上昇を続ければ夏には1万ドルに迫る可能性さえ否定できない。

一方、景気後退リスクと世界同時株安に背中を押されて米国が打ち出した急ピッチの利下げと景気刺激策はインフレ要因を生み出す。世界の株価が次々と急落する「不安の連鎖」は断たなければならないし、景気後退があっても軽度に抑えたい。だが金融緩和と、それに続くドル安は様々な副作用を伴う。

米国の金融緩和が必要以上に長引けば、インフレ懸念と相まって投資マネーの流入が膨らみ、本来あるべき調整が小幅にとどまったり、需給実勢を無視して価格が上昇したりする可能性さえある。金価格が1トロイオンス950ドルを突破、米原油先物が再び1バレル100ドル台に乗せ、400台に乗せたロイター・ジェフリーズCRB指数(1967年平均=100)には商品市場へのマネー流入が加速する気配が見える。

調整局面はあっても、世界景気のけん引役が米国から新興国へと移行する歴史の流れは変わらない。住宅バブルの崩壊と基軸通貨ドルの揺らぎは歴史転換のスピードを加速させる可能性さえある。だが生産効率の低さや物価統制などの規制が残る新興国には成長過程ゆえの弱さがある。バブルを伴う商品価格急騰は、新興国を中心に世界経済への打撃と、その後の商品価格急落につながる。米国発マネー波乱の影響には引き続き注意が必要だ。

2012年5月14日月曜日

金券ショップ、市場縮小に拍車

手に入りにくいスポーツやコンサートなどのチケットを買い求めようと金券ショップに足を運んだ経験のある人は多いだろう。だが、最近はヤフーオークションをはじめとするインターネット上にチケットが多く流れている影響で、金券市場の縮小が進んでいる。

「10年前に1兆円規模だった金券市場は2―3割縮小した」と語るのは金券販売大手、大黒屋の松藤俊司社長。原因はネット販売の広がりばかりではない。

ハイウェイカードや高速券は1枚数万円することもあり、金券店では売り上げのおよそ2割を占める主力商品だった。しかし高速道路で自動料金収受システム(ETC)が普及し、紙のチケットが消え始めていることが金券市場の縮小に拍車をかけた。ハイウェイカードや高速券に代わって、航空会社の株主優待券が金券店の主力商品になりつつあるといえるが、単価は下がっているという。

新幹線の回数券も金券店の利幅はせいぜい数百円。今春からJR東海などが始める新幹線のチケットレス予約でも料金は割引になる。これを受けて金券店が割安価格で販売する回数券の需要も今後1―2年間で先細りになる可能性が高い。

こうしたことを背景に、金券店の数も減っている。全国には約2000店の金券ショップがあるとされるが、廃業が進み「ここ3年間で金券店の数は約1割減った」(ラッキーコレクション、伊集院浩二社長)。約3年前に600店近かった日本チケット商協同組合の会員数も2007年12月末時点で553店に減少している。

金券販売の利幅は小さい。東京で平均3―5%、大阪で2%程度とされる。商品の縮小やネット販売の拡大を受けて金券店1店当たりの売上げは年間5―10%のペースで落ちているという。大黒屋の07年3月期の全売上高は約650億円。このうちチケットは545億円、中古ブランド品は100億円。チケットが前期比約3%減る一方で中古ブランド品は約10%増と伸びており、ブランド品販売で金券の売り上げ減をカバーしている状況だ。外貨両替サービスを始める金券店も増えており、金券以外で収益の拡大方法を模索しているようだ。

2012年5月3日木曜日

家庭へ広がる企業向けサービス

このあいだ職場の送別会で使ったレストラン、安くておいしかったなぁ。今度家族でも食べに行ってみようか」。こうした経験がある人もいるのではないだろうか。職場で経験して良さを実感したものを家庭生活で取り入れてみる。そんな動きがサービス業にも広がっている。

企業のオフィス内に大型の飲料水タンクを見かけることが増えた。職場に飲料水を配達するサービスが拡大しているのだ。複数のサービス会社によると契約した配達先は前年比3割程度増えているという。

その1つであるナックでは「企業だけでなく、最近は家庭に配達するケースが増えた」と説明する。同社が抱える配達先は約20万件で、このうち4割が一般家庭だ。

同社が飲料水配達に参入したのは2002年。当初は企業向けが中心だったが「次第に家庭からも注文が舞い込み始めた」という。職場に配達された飲料水に便利さを感じ、自宅でもサービスを利用したいと考える人が増えたためだ。

利用者をひき付けたのは安さだ。同社の料金は標準の12リットル入りボトルが1本1200円(税抜き、配達と空ボトルの回収コスト込み)。1リットルに換算すると100円とコンビニエンスストアで売られるミネラルウオーターより割安だ。

ミネラルウオーターなど“こだわりの水”で炊事する家庭は以前から増えていた。こうした家庭から見れば「配達サービスなら重いペットボトル入りの水を買い出しに行かなくても済むし、大量の空ボトルを資源回収に出す手間がなくなる」(ナック)という。同業のサービス会社には今後も事業所主体の営業路線を示すところもあるが、ナックは「ウチは一般家庭も積極的に顧客として取り込みたい」と話す。

掃除、洗濯などを請け負う家事代行サービスもすそ野が拡大している。大手のベアーズ(東京・中央)は05年からサービス利用の法人契約を始め、現在では150社近くの企業が利用している。法人契約の場合は通常料金より5―10%割り引いている。

「出産した従業員が円滑に働けるように雇用主として支援できないだろうか、と経営者から相談されたことが法人契約を始めたきっかけ」と同社の高橋ゆき専務は語る。

法人契約のサービスを利用した顧客が内容に満足し、そのあとに個人契約で家事代行を利用するケースも増えているという。具体的な料金を知り、サービスも金額にふさわしいものだと知る人が増えたということだ。

これら2つの例には共通項がある。一昔前なら「飲料水や家事にお金をかけたくない」との先入観を持つ人がいたということだ。しかし、勤務先でサービスの内容や料金水準を知れば、先入観は薄らぐ。

内容が代金に見合ったものなのか。新興のサービス業では常につきまとう問題だ。認知度の向上や販促の手法として、“職場発”が広がる可能性があるのかもしれない。