2015年1月14日水曜日

限度を知らぬ高報酬

それは不気味な世界だが、それ以上に、その子どもか結婚して子どもをもうけたとき、正常なヒトが生まれてくるか定かではない。今までまったくなかった遺伝子か人類の遺伝子の中に挿入された場合、どうなるか見当もつかない。自然界の多様性の原則が崩れることは自然の摂理に反する。一度クローン人間かできれば人類全体の脅威になる。そこで、現在多くの国がクローン人間の創出については規制を加えている。日本は二〇〇一年、クローン技術の規制に関する法律をつくり、クローン人間に関する研究を禁止し、違反した者は懲役または罰金刑が科せられることになった。ところが、アメリカはクローン人間の創出を法律によって禁止していない。アメリカ政府もよいこととは認めていないので、政府の予算でクローン人間に関する研究を行うことを禁止しているが、それ以上の措置を講じていない。

そこで富豪か自分の分身をつくりたいとして、大金をはたいてクローン人間の技術を開発したい研究者と組んで、実際クローン人間をつくるということは起こりかねない。まさに自由の国だから。しかし、このような自由は許されてよいのだろうか。一度でもクローン人間が生まれれば他の人が真似することはたやすくなり、なかなか止めることができない。したがって、ことか起きる前に決定的な対策をとらなければならないわけで、クローン人間に対し、日本やヨーロッパ加法的な禁止措置をとったのは極めて妥当なことと言えよう。

しかし、アメリカは違う。アメリカにおいては、個人の自由か大きく立ちはだかるのだ。生命分野の科学技術の進歩は著しい。新しい発見や発明が次々と医療や日常生活の分野で利用されはじめている。人間の遺伝子をいじくり回すことができるようになると、病気を治すことばかりでなく、とんでもないことか起きそうである。筋力がずば抜けたスーパーマンや、脳を改変したアインシュタインのような超人が続々生み出されるかもしれない。さらに、遺伝子改変には相当な金がかかるだろうから、金持ちだけか自分の都合のいいように新しい技術を利用していくことになる可能性か高い。欲しい人、つくりたい人の自由を偏重すれば、社会を混乱に導くことは必至である。

生物としての人類の秩序を壊し、人間社会に不愉快と混乱を与えるクローン人間を許す自由か、本当に守るべき個人の自由かどうかは、本質的に問題であり、個人の自由と社会秩序の調和の問題は、これからの大きな課題となるだろう。アメリカにおいては、人種、身分、縁故などに関係なく、個人の実力によってのみ人は評価され、しかるべき仕事率地位などか与えられるという「実力主義」の傾向か強い。これまで学問の世界では、その魅力に駆り立てられ、優れた日本人研究者かアメリカで活躍してきた例がよく知られている。

のちにノーベル賞を受賞することになる江崎玲於奈氏は、IBMで研究者として迎え入れられ、長い間アメリカで研究を行った。石坂公成氏は免疫学で頭角を現し、アメリカ免疫学会の会長にまで登りつめた。野茂やイチロー、松坂など多くの日本人選手か大リーグで活躍し、日本製品だけでなく、日本人個人個人の能力か再評価される契機となった意義はすこぶる大きい。だか、この実力主義もついつい限度を超えてしまう。優秀な人が多くの報酬を得るのは当然だが、自由に報酬か決められるから果てしなく報酬が上昇する。アメリカの会社役員の報酬は桁違いに高い。アメリカの大企業の社長の平均報酬は二〇〇七年度で年間一〇五〇万ドル、当時の一ドル=二一〇円換算で二一・六億円であり、さらに正規の報酬のほかにストックオプションなどの報酬によって、なかには数百億円を得ている社長もいる。